箸
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箸(はし)は、東アジア地域を中心に広く用いられる食器・道具の一種で、二本一対になった棒状のものを片手で持ち、ものを挟んで移動させるために用いる。多くの場合、皿などの器にある料理を掴んで別の皿や自分の口に持って行くために用いられ、食器の一種に位置づけられる。材質には各種の木、竹、金属、プラスチック、象牙等があり、口中を傷つけないように表面を丁寧に削るか、漆・合成樹脂などでコーティングしてある。
現代日本では食事中に食べ物を移動する目的で使用する食器として、フォーク・スプーンなどと並んで非常に広く用いられる。また、最近では宇宙飛行士が宇宙での食事の際に食べ物をしっかりと持つことができるので活用されている。
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[編集] 主な特徴
箸は、材質や形状などに様々なバリエーションがあるが、同じ長さの2本の棒状のものが1組になっている点はほぼ全ての箸に共通している。多くの場合、模様や装飾の類も左右対称になるよう2本に同じ物が施されている。
また、箸には通常「先」がある。すなわち、基本的に棒のどちらか一端のみが食べ物に接触することが前提となっている。これは棒の一端が細くなっていること、装飾などがないこと、などによって見分けられる。
食事に用いられる箸の典型は、日本のものでは短い木に漆・合成樹脂を塗ったもので、塗り箸と呼ばれる。日本の箸は先が細くなっているものが多い。日本の箸の先が細くなっているのは、骨付きの魚を食べる際、骨と身をより分けやすくするためである。日本の箸は、塗り箸など木製が古来から主流である。
中国のものはやや長く、先もその反対側も若干細くなっているが、日本の箸に比べてそれほど細くはなっていない。円柱型や四角柱型が多く、また四角形型のものも、食べ物を挟む部分はたいてい円柱型をしている。最も高級なものは象牙を用いるが、普通は竹や木を用いる。またプラスチック製の箸を用いるところもある。
朝鮮半島では戦乱が多かったため、箸に耐久性が求められた。そのため短く、やや平たい金属製のものを使うことが多い。鉄製などがあるが、現代の韓国ではステンレス製が主である。歴史上では、支配階級を中心に銀製も使用された。これは硫黄や砒素と反応し変色するため、暗殺を未然に防ぐ効果があった。
また、割れ目の入った細長い木片を縦に2つに割ることで箸になる割箸もある。これは使い捨て用の安価な箸として、店舗などで販売される弁当や一部の食堂などで提供される。 菜箸や鉄箸といった調理専用の箸もある。
[編集] 歴史
5000年前の中国で、煮えたぎった鍋から食べ物を取り出すのに二本の木の枝を使ったのが箸の始まりと言われている。
史記によると、帝辛が象牙の箸を使用したという逸話がある。 また、箸は元々、竹の棒の中央部分を加熱して曲げて作ったトングに由来する、ともされる。
その後孔子が、「君子厨房に近寄らず」(君子遠庖廚)の格言に基づき、厨房やと畜場でしか使わない刃物の、食卓上での使用に反対した。そして料理はあらかじめ厨房でひと口大に、箸にとりやすい大きさに切りそろえられ、食卓に出されるようになったので、箸が普及していったと言われる。西洋料理の食卓でフォーク・スプーンとともにナイフが使用されることとは対照的である。
中国文化が周辺地域に影響力を及ぼすと共に(周辺地域の民族が外交的に中国・漢民族から野蛮人と見られたくないこともあって)、他の国でも使われるようになっていった。
[編集] 分布
世界の約3割の人が、箸で食事をしているとの統計もある。
現在、日本・中国・台湾・シンガポール・ベトナム・モンゴル・韓国・北朝鮮などの国と地区で日常的に使われている。
タイでは,伝統的には手づかみで食事をしていたが、今では麺類を食べるときは箸を、それ以外の料理を食べるときはフォークとスプーンの利用が広まっている。またご飯やスープを食べるときは箸を使うこともある。日本料理・中華料理の世界的な普及により、欧米でも、このような食事には器用に箸を使える人が増えている。
[編集] 使用法
箸は通常、他の食器と共に食卓の上におかれる。
「箸置き」と呼ばれる箸の先をもたせかけるための小物の上に置くこともあり、レストランなどではナプキンの上に置く場合もある。
食事中は利き手に持つ。1本を鉛筆を持つ要領で持ち(親指・人差指・中指で抓んだ状態)、もう1本を中指と薬指の間に挟む(主に親指の付け根と薬指の先の2点で固定する)と、正しい箸の持ち方になる。親指・人差指・中指で持っている方を動かし、薬指で支えている方は動かさない。
正しい持ち方をした場合、2本が2~3cmの隙間を隔てたまま平行に出来、掌側の箸同士は常に間隔が空いた状態となる。また、2本を大きく開かない限りは接触しない。正しい持ち方が出来ているかどうかは、鶏の卵を掴み、垂直に持ち上げられるかどうかや、鶉の卵大のものを掴んだ際、2本が平行に近い形となっているかでも概ね判断できる。
なお、箸を使う国の中で、箸のみを使って食事をする国は日本だけだとされる。和食では、汁物を食べる場合も箸だけであるが、中華料理では、汁物を食べる際にレンゲを使用し、韓国料理では、ごはんも匙を使って食べ、箸はおかず等の副菜をつまむ時や麺類で使うのが一般的。
マナーの悪い箸の使い方のことを嫌い箸と言うが、これらのマナーもまた、箸を使う国によって異なるようである(英語版参照)。
日本では箸を使用しない間、箸を「箸箱」と呼ばれる細長く上に蓋の付いた小型の箱に保管する人が多い。箸を持ち運ぶ際に箸箱に入れておくこともある。
古来から日本の家庭の箸の使い方で特徴的なのは、属人器であり、各人の専用の箸(茶碗も)が家庭内で定められていることである。これは中国の多くの地域(漢族の地域など)や朝鮮半島などでは行なわれないことである。ただし、日本においても全ての家庭で行なわれているわけではない。
また、オロチョンなど北東アジア北部の一部の狩猟民族には、民族衣装を着た際、ナイフとともに獣骨で作った箸を腰の脇に差して携える習慣がある。
[編集] 食事以外での用法
また日本で箸は、火葬された遺骨を骨壷に移すときにも使われる(仏式の場合)。 そのときの骨箸(コツバシ)は、それぞれ長さの違う竹と木でできた特別なものを用いる。日本で箸から他の箸へ料理を渡してはいけないと言うマナーは、骨箸同士で遺骨を渡していくことを連想させるために生まれたと言われる。
[編集] 慣用表現
- 箸が転んでも可笑しい年頃
- 箸が進む(食が進む)
- 箸が端
- 箸にも棒にも掛からない
- 箸の上げ下ろし
- 箸より重いものを持たない
- 箸を付ける
- 箸を取る(食事する)
- 塗箸で芋を盛る
[編集] 文献
- 阿部正路『箸のはなし はしと食の文化誌』ほるぷ出版、1993年7月、ISBN 4593534267
- 一色八郎『箸』(カラーブックス)、保育社、1991年11月、ISBN 4586508167
- 一色八郎『箸の文化史 世界の箸・日本の箸』御茶の水書房、1990年12月、ISBN 4275014065 / 改訂版: 1993年1月、ISBN 427501491X / 新装版: 1998年8月、ISBN 4275017315
- 一色八郎『日本人はなぜ箸を使うか』大月書店、1987年11月、ISBN 4272600265
- 江頭マサエ『箸のおはなし』JDC、1987年12月、ISBN 4890080619
- 小倉朋子(監修)『箸づかいに自信がつく本 美しい箸作法は和の心』リヨン社、2006年1月、ISBN 4576052217
- 高橋隆太『究極のお箸』三省堂、2003年12月、ISBN 4385361924
- 向井由紀子・橋本慶子(共著)『箸 ものと人間の文化史』法政大学出版局、2001年11月、ISBN 4588210211
- 湯川順浩『ワリバシ讃歌 資源ムダづかい論を切る!』都市文化社、1990年6月、ISBN 492472016X
- Ying Chang Compestine, Yongsheng Xuan, The Story of Chopsticks, Holiday House, 1st Sep 2001
[編集] 外部リンク