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パナソニック スカラシップ社

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奨学生の声

最優秀賞
劉瀟の写真 『心の桜
劉 瀟 (中国)
2006年度採用奨学生
研究生 (コンピュータ科学専攻)
◎2006年エッセイコンテスト 最優秀賞作品
 東京大学の赤門のそばに大きな桜の木がある。初めてこの木を見たときは、ちょうど春雨が降っていた頃だった。古い校門、数え切れない桜のつぼみ、立派な安田講堂、春雨と一緒に美しい絵を構成していた。その日は私が日本に来てから二日目であった、空気はまだやや冷たかった。
 その後、研究室の友達は私にこう言った:日本の桜にはたくさん種類がある。しかし、赤門のそばのものは日本人が最も好きな種類ではない。それにもかかわらず、毎年桜が満開になったとき、たくさんの人が集まり、その木の下で写真を撮ったり、絵を描いたり、満開の瞬間を楽しむ。
 中国と違い、日本の学校は4月に始まる。学生になった子供と親たちが手をつないで入学式に出かけ、桜咲く校庭で記念写真を撮るのは、昔から変わらない日本の風物詩だ。桜は日本人の生活の中にも深く根をおろしている。「花見」も春の楽しみの一つだ。人々は桜を見に有名な行楽地へ出かける。東京の上野公園や新宿御苑、大阪の大阪城公園や造幣局の桜の通り抜けには多くの人たちが押し寄せる。花見客たちは桜の下に座って酒を飲んだり、食事をしたりして春の一日を楽しむ。歌ったり、踊ったりする人もいる。
 ところで、私はあの木を初めて見た時から、ずっと好きでたまらない。あの木のために、私は毎朝赤門をくぐって学校に入り、毎晩また赤門を通り抜けて駅に向かう。朝日の中にしても、夕焼けの中にしても、さらに雨の中にしても、あの桜の木は変わらぬ美しさを持ち続け、しとやかさを保っている。ある日、ピンクの桜と緑の松が霧雨の中にけぶっていた。しかし、しばらくすると、雲間から太陽の光が差し始めた。春日よりの日差しの切れ間から、ひとしきりひとしきりとそよ風が頬を撫でてゆく。それにつれて、桜の花びらが舞い落ちる。地面に落ち、谷川に落ちる。そんな光景と自らの思いを込めながら、深く心を打たれた。
 桜の木の下にいくつかのベンチがある。そこに座ると、時間さえ止まっているように感じられる。あそこしか得られない静けさが私は好きである。あの日、初めてお母さんから手紙をもらった。私は一人で、桜の木の下で家族の雰囲気を異国で味わった。家、お父さん、お母さん、ベッドの上にある熊のぬいぐるみ、本棚に置いてある本、すべて懐かしんでいた。初めて、自分は家から遠く離れたところにいるんだなあと実感した。涙が自然に流れた。突然、風が軽く吹いてきた。桜の花びらも雪のように降ってきた。なぜかわからないけど、この花吹雪を見て、私の心は安らぎを得た。自分は家から遠く離れても、たとえたくさん困難があっても、自分はまだ孤独ではない。自分の周りに、家族の絆が無形に存在しているし、友達もいるし、私は恐れることなんかない!
 5ヵ月の間、私は、楽しいときにも悲しいときにも、一人で桜の木の下でしばらく座って心を静かにさせる。やさしい桜は一輪では目立たないが、一面になると本当に感動を与えてくれる。桜の下に座ってはじめて安心感を覚え、本当の自分が見つかり、ストレスが解消できる。
 入試結果が出たときはちょうど猛暑のころであった。しかし、私は寒さを強く感じていた。どうしたらいいか本当にわからなかった。私はまた一人であの木のところに行った。心の中にずっと隠されていた空しさ、何ヵ月も一所懸命に復習した苦しさ、何ヵ月もの生活での苦労、何ヵ月も続いた家への懐かしさ、すべてついつい思い出して涙がまたこぼれた。しかし、私は桜の生き生きとした緑の葉に慰められた。だんだん私はわかってきた。努力さえすれば、きっといつかこの木と同じように、美しい花を咲かせるはずである。
 たぶん、PHPのカレンダーに書いてある「汗の中からほんとうの知恵」のように、ただじっと腕をこまねいていても知恵は出てこない。額に汗して懸命に取り組んではじめて良い知恵が出る。生きる喜びも、成果も生まれてくる。私はどんな困難と出会っても、心の静けさを保たなければならない。毎日が新しく、毎日が門出。桜にはある種の魔力があるかもしれない。無常の感嘆を現世の大事なものに変えているのかもしれない。桜を知り尽くせば、人生を知り尽くすことになるのではないかと思われてならない。
 もしかしたら、だれの心にも桜の木がある。たぶん、だれもが自分の桜の木が満開の時期が早くくるように期待している。

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