学 会 長 挨 拶 会長就任挨拶 社団法人日本地すべり学会会長 新潟大学災害復興科学センター教授 丸井英明 |
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平成18年5月12日に開催された(社)日本地すべり学会理事会において、図らずも、平成18、19年度の会長に選任されました。学会誌並びに学会ホームページの場を御借りして会員の皆様方に御挨拶を申し上げます。 本学会は幾多の諸先輩の地すべり研究の推進に向けた強い熱意によって、昭和38年に当初「地すべり総合研究会」として発足し、昭和40年には「地すべり学会」と改称され、以来40有余年の歴史を刻んで参りました。この間、会員の皆様方の弛まぬ研究活動並びに技術研鑽によって、地すべり現象の実態把握から機構解明、調査解析手法並びに防止工法の開発に関し、多大の業績が積み重ねられて参りました。また、21世紀を目前に控えた平成11年には、諸先輩の長年にわたる御尽力の結果、本学会は「社団法人日本地すべり学会」として宿願であった法人化を遂げることができました。法人化によって本学会が社会的な認知を得て一層の発展を遂げる基盤が形成されました。 学会定款では、本学会の目的として「地すべり等の斜面変動及びこれに関連する諸現象とその災害防止対策に関する研究者並びに技術者相互の交流を図り、その有機的な連携のもとに学術的・総合的に調査研究を行い、その成果を広く内外に公表する」ことが明記されております。学会の調査研究活動の成果を公表する手段として、学会誌の刊行は最も重要な事業であると考えられます。学会誌「地すべり」は昭和39年に発刊され、年4冊の刊行を続けて参りましたが、平成15年度より年6冊の刊行となり、現在通算170号まで巻を重ねて参りました。編集部員各位の絶大な御努力、創意工夫と会員の皆様方の弛まぬ論文投稿に支えられ、学会誌はその内容を充実させ、関連他学会の会員の方々からも高く評価される専門誌となっております。また、毎年定期的に研究発表会を開催して参りましたが、昨年の佐世保大会で44回を数えております。近年では、発表件数は150編の多数に上っており、数百人から時に千人に及ぶ会員の参加を得て活発な討論が行われております。さらに、特定のテーマに関するシンポジウムの開催も、初回の昭和47年以降今日まで28回を数えております。 現在、学会誌や研究発表会講演集に見られるように、本学会の研究対象は極めて多岐に亘っております。その範囲は、いわゆる狭義の再滑動型地すべりはもとより、崩壊、土石流、火砕流、落石・岩盤崩落、盛土・法面崩壊、地震時側方流動、さらに雪崩にまで及んでおり、「重力に起因する斜面上の物質の下方への移動現象」全てが包含されているといっても過言ではありません。このように広範囲に及ぶ研究活動に対応して、学会員の拠って立つ専門分野も基礎学としての地質学、地形学、地球物理学、地球化学等から応用学としての治山・砂防学、森林工学、農業工学、地盤工学あるいは土木工学等に至る幅広い分野を網羅しております。このような卓越した学際性は本学会の大きな特徴の一つであり、本学会は多くの要因が関連する複雑な自然現象である地すべり等の斜面変動を多面的かつ総合的に研究し得る十分な根拠を有しているといえましょう。他方では、学会員の所属機関も、大学や研究所、官公庁、コンサルタント企業等多岐に亘っており、調査研究活動における産官学の横断的な連携協力もまた本学会の特色の一つであります。このことから、本学会は学術的研究成果を地すべり等による斜面災害の防止・軽減に向けた実務に適用し、社会的な要請に応えていくための十分な素地を備えていると思われます。 本学会の活動は、全国規模での事業の推進と並行して、各支部における日常的な研究調査活動に支えられております。既存の北海道、東北、新潟、中部、関西、九州支部に加えて、本年4月28日に新たに関東支部が発足し、一応全国を網羅する支部体制が形作られました。各支部においても研究発表会やシンポジウムあるいは現地討論会の開催や調査研究成果のデータベース化等多様な活動が展開されております。今後、本部と支部の連携をさらに強化し、学会全体としての活性化を目指していきたいと思います。 本学会はまた、これまでの長年に亘る調査研究成果の蓄積に基づいて、今後世界の地すべり研究を主導していく責務があろうと考えます。平成16年1月に、UNESCOやFAO等の国際機関と各国政府機関の後援の下に、国際斜面災害研究機構(ICL)が設立され、斜面災害の研究および人材育成の推進を目的として国際的な共同研究が行われつつあります。本学会は創設以来の正会員として、調査研究成果の海外への発信に努めております。また、本年9月には新潟大学において国際防災学会INTERPRAEVENTが開催されますが、本学会も共催団体としてその企画運営に参画しております。同会議にはヨーロッパアルプス諸国を始め海外からの多数の研究者の出席も見込まれ、特に地すべり関係の論文多数が発表される予定です。会員の皆様方も奮って御参加下さいますよう御願い申し上げます。 本学会では、十数年前から大規模な斜面災害の発生に際しては、直ちに学会調査団を派遣し緊急調査を実施する体制を整えております。近年では、最新の学会誌170号の特集で取りあげられておりますように、2004年には豪雨・地震による土砂災害が相次ぎました。同年7月の新潟豪雨災害では河川堤防の決壊による市街地での浸水被害が大きかったわけですが、斜面災害も多発したため、地すべり学会では調査団を派遣致しました。さらに、10月23日には新潟県中越地震が発生し、斜面崩壊、地すべり、河道閉塞などにより甚大な被害を生じました。本学会は、直ちに中越地震による斜面災害調査を実施し、緊急報告を行っております。現在も精力的に調査研究が継続されており、近々報告書を取り纏める予定になっております。従来、地震時には急斜面の尾根部や凸型斜面で斜面崩壊が多発するが、緩斜面における再滑動型地すべりは余り発生しないとされてきました。しかしながら、全国有数の地すべり多発地域で発生した中越地震では斜面崩壊に加えて、旧山古志村を中心として多数の地すべりも発生しました。今後、調査結果を十分に検討し、地震による地すべりの特性の解明に取り組むことと、被害の軽減に向けたハザード・ゾーニング手法を開発することが重要課題であると考えられます。 中越地震の1年後、 2005年10月8日パキスタン北部カシミール地方でマグニチュード7.6の大規模地震が発生し、死者83000人以上とされる甚大な人的被害が生じました。ヒマラヤ山脈西縁の急峻な山岳地帯で発生した強い内陸型地震により、極めて多数の地すべり、斜面崩壊が生じ、地すべりダムも形成されました。本学会はパキスタン政府地質調査所からの要請を受け、三次に及ぶ調査団を派遣して共同調査を実施し、地震による地すべりの実態把握を行い、さらに今後の地すべり対策のための提言を行ってきております。現地の被災状況を見ると、現象の規模は大きいものの、中越地震による斜面の被災と似通っています。中越地震による地すべり災害を経験し、地震後の災害対応の過程で蓄積された技術や経験は是非とも体系化され伝承されるべきであると思われます。それらは、将来日本国内の中山間地で同種の地震による地すべり災害が発生した場合は言うに及ばず、パキスタンを始めアジアの変動帯における共通の課題に対しても本学会の積極的な技術協力を通じて役立ちうるものと考えられます。 会員の皆様方の御努力により、本学会はこれまで概ね順調に発展を遂げて参りました。しかしながら、幾つかの重要な課題に直面していることも事実であります。何よりも目前に迫った公益法人法の改正を控え、本学会もこれまで以上に調査研究の成果を斜面災害の軽減に役立て、社会的な要請に応えるよう公益的活動を強化していく必要があろうかと思われます。また、調査研究活動を一層充実させていく上で、財政面での基盤強化も不可欠です。さらに、多くの関連学会では会員数の減少に直面しております。その背景には国家財政の危機的状況下で、官公庁の防災担当部局の整理統合が進むといった構造的問題があります。本学会の会員数はほぼ2000名を維持しておりますが、会員数の確保特に若手会員の増加を図ることは、学会活動のさらなる活性化を考える上で極めて重要であると思われます。本学会の直面する様々な課題に思いを巡らせ、改めて会長としての責務の重大さを痛感致しております。微力ではありますが、難局を乗り切るために全力を尽くす所存であります。会員の皆様方より一層の御鞭撻と御支援を賜りますよう御願い申し上げます。 |
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