「犯罪機会論」で読み解くあの事件

2018年3月23日

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小宮信夫 (こみや・のぶお)

立正大学文学部教授

立正大学文学部教授。社会学博士。日本人として初めて英国ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。
警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長、東京都「非行防止・犯罪の被害防止教育の内容を考える委員会」座長などを歴任。
代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。
公式ホームページは、「小宮信夫の犯罪学の部屋」http://www.nobuokomiya.com

 子どもを狙った誘拐のほとんどは、だまされて連れ去られたケースである。東京・埼玉連続児童殺人事件(宮崎勤事件)も、神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗事件)もそうだった。ほとんどの犯罪者は、強引に子どもの手を引いて連れ去ろうとはしない。無理やりの場合は、失敗すればただちに捕まるが、だましの場合は、失敗してもそれだけでは捕まらないからだ。

 したがって、子どもを被害者にしないために最も必要なのは、大声で叫んだり、走って逃げたりする練習ではなく、どうすればだまされないかを教え込むことである。

(BananaStock)

景色はウソをつかない

 人はウソをつくから、人を見ていては、子どもはだまされてしまう。だまされないためには、絶対にだまさないものを見るしかない。それは景色――人はウソをつくが、景色はウソをつかない。

 景色の中で安全と危険を識別する能力のことを「景色解読力」と呼んでいる。景色からのメッセージをキャッチできれば、危険を予測し、警戒レベルを上げられるので、だまされずに済む。防犯のために注視すべきなのは、人ではなく景色なのだ。

 松戸ベトナム女児殺害事件(リンちゃん殺害事件)のように、たとえ日ごろはやさしく親切な「知っている人」でも、「危険な景色」の中にいるときは、信用してはいけない。逆に、「知らない人」でも、「安全な景色」の中にいるときは、言葉を交わしたり、助けの手を差し伸べたりしてもいい。道徳教育で言われているように、「人は見かけで判断するな」を基本にしつつも、「人は景色で判断しろ」ということだ。

 では、どうすれば景色解読力を高めることができるのか。その簡単な方法が「地域安全マップづくり」だ。地域安全マップとは、犯罪が起こりやすい場所を風景写真を使って解説した地図である。だれでも楽しみながら「犯罪機会論」を学べるツールとして、2002年に私が考案した。

 犯罪機会論は、犯罪者の動機や性格には興味を持たない。犯罪者がどんな人だろうが、犯行パターンには共通点があり、その共通点を抽出することに興味を示す。その共通点を一言で表すと、犯罪者は景色を見て、そこが「入りやすく見えにくい場所」だと判断すれば犯行を始めるが、そこが「入りにくく見えやすい場所」だと判断すれば犯行をあきらめる、ということだ。

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